【個人事業主必見】消費税の納付が免除される?免除の条件と消費税計算方法など仕組みを解説

個人事業主や今後独立開業をお考えの方を対象に、消費税免除の条件や課税事業者となった場合の消費税計算方法など、知っておくべきことをわかりやすく解説します。

「消費税は複雑でよくわからない」
「そもそも消費税を支払う義務はあるのか?」
「支払う対象なのであれば消費税の計算方法は?」
「消費税を免除されている個人事業主でも消費税を請求して大丈夫?」

など、個人事業主になったばかりの方やこれから開業を考えている方は、分からないことばかりではないでしょうか。

消費税の支払いに関する個人事業主の疑問に応えるべく、複雑な消費税の課税や免除をひとつずつ説明していきます。

個人事業主の消費税の納付はいつから?

個人事業主の消費税の納付はいつから?

個人事業主の消費税の取り扱いについては、一定の条件が定められています。消費税の確定申告は、納税義務がある事業者「課税事業者」が行います。一方、納税義務が免除された事業者「免税事業者」は消費税の確定申告を行う必要はありません。

どのようなケースで課税されるのかしっかりと理解し、自身は課税される可能性があるのかどうか把握することが大切です。まずは消費税の課税条件を判断するには、まずは「基準期間」「特定期間」「課税売上高」という用語を理解し、個人事業主の課税の条件やタイミングを学びましょう。

課税の条件

個人事業主に消費税が課税される条件は以下のように定められています。

    ・課税期間より前々年「基準期間」の課税売上高が1000万円超
    ・前年の1月1日~6月30日の課税売上高または給与支払額が1000万円超
    ・消費税課税事業者選択届出書を提出している

基準期間 = 前々年の売上高が1000万円超であるかどうか、これが重要な判断基準となります。1000万円超の売上があれば課税事業者です。売上が1000万円以下であれば免税事業者となるため消費税の納税義務はありません。

また、前年1月1日~6月30日の売上、または給与などの支払いが1000万円を上回った場合も、課税事業者となるため注意が必要です。例外的に設けられるこのような期間を「特定期間」とよびます。

消費税が課税されるタイミング

前述したように、免税事業者・課税事業者のどちらに該当するかは基準期間の「課税売上高」で判断します。課税される前々年の売上高をもとに決定されるため、2020年の売上高が1000万円を超えた場合は2022年に課税義務が発生します。

特定期間のルールも踏まえて考えると、2019年1月1日~6月30日の売上が1,000万円を超えた場合にも課税事業者となります。課税されるタイミングは、1年後の2020年です。上半期の売上高も重要な要素である点を理解しておきましょう。

1年間の売上高が1000万円以下の個人事業主は免税事業者となり、2年後に納税する義務は発生しません。課税されるタイミングとあわせて、どのようなケースで納税義務が発生するかもおさえておきましょう。

個人事業主の消費税は免除されることがある?

個人事業主の消費税は免除されることがある?

個人事業主として商品を販売したりサービスを提供すると、その商品を購入した人、またはサービスを利用した人からお金を支払ってもらいます。その支払ってもらう金額には、当然消費税が含まれています。

消費税は国に納めなければならない税金です。個人事業主は、その消費税を消費者から「預かっている」形になっているため、その分を納税する必要があるのです。

ただし、条件次第では個人事業主の消費税の支払いは免除になる可能性があります。

消費税を納める必要がある事業者を「課税事業者」、消費税を納める必要がない事業者を「免税事業者」と呼びますが、個人事業主の方は自身が課税事業者なのか免税事業者なのか、きちんと判断しておく必要があります。課税事業者にあたる場合は、税務署に「消費税課税事業者届出書」を提出する必要があるためです。

次の項では、個人事業主が消費税の納税が免除されるための条件を詳しく説明します。

個人事業主で消費税の支払いが免除になる条件

個人事業主で消費税の支払いが免除になる条件

個人事業主が消費税の支払いを免除してもらうためには、以下条件のいずれかを満たさなければなりません。

■ 開業1年目
■ 基準期間および特定期間の課税売上高が1000万円以下

ではそれぞれの条件についての詳細をみていきましょう。

開業1年目

個人事業主が課税事業者となるか免税事業者となるかは、基準期間や特定期間の課税売上高によって決まります。その基準期間および特定期間は、それぞれ以下のように定められています。

【基準期間】
消費税の納税義務を判定する年の前々年の1月1日~12月31日

【特定期間】
消費税の納税義務を判定する年の前年の1月1日~6月30日

よって、判断材料となる基準期間および特定期間における課税売上高が存在しない「開業1年目」は、自動的に免税業者となるわけです。

基準期間および特定期間の課税売上高が1000万円以下

基準期間と特定期間、双方の課税売上高が1,000万円以下の場合は消費税を支払う必要はありません。

開業2年目の場合でも、1年目と同じく「前々年の1月1日~12月31日」にあたる基準期間が存在しないため、免税事業者となりやすい傾向にあります。しかしながら、「前年の1月1日~6月30日」にあたる特定期間に課税売上高が1000万円を超えてしまえば課税事業者になります。

尚、特定期間については課税売上高以外にも、給与等支払額が1000万円を超えている場合も課税事業者となります。

個人事業主が知っておきたい免税事業者について

個人事業主が知っておきたい免税事業者について

事業を開始して2年間は、基準期間つまり前々年の課税売上高がないため、基本的には免税事業者となります。

さらに事業開始2年を経過した後であっても、基準期間の課税売上高が1000万円以下の場合は免税事業者です。

以下は個人事業主が勘違いしやすい、免税事業者に関する注意すべき点を挙げています。

課税事業者になった後も免税事業者に戻れる!

課税事業者になった場合でも、後に課税売上高が1000万円以下となった場合は免税事業者に戻ることができます。その場合は「消費税の納税義務者でなくなった旨の届出手続」を行うことで、翌々事業年度は免税事業者になります。一度、課税事業者になったからといって免税事業者に戻れないわけではないのです。

基準期間内の課税売上高が1000万円以内でも、特定期間内の課税売上高が1,000万を超えた場合は課税事業者に!

基準期間は意識していても、特定期間については忘れがちです。特定期間とは、個人事業者の場合は、その年の前年の1月1日~6月30日までの期間を指し、法人の場合は原則としてその事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間のことを指します。

要するに、事業開始後2年目であっても、1年目の売り上げが好調だった場合には2年目から消費税の納付義務が生じるということを忘れないようにしましょう。

個人事業主の消費税の計算方法

個人事業主の消費税の計算方法

個人事業主の消費税額の計算方法には「一般課税(原則課税)」と「簡易課税」の2種類があります。

原則課税方式

原則課税は一般課税とも呼ばれ、顧客から預かった年間の消費税より、仕入れなどにかかった消費税を差し引いて消費税の納付金額を算出する方法です。計算式は下記の通りです。

    原則課税で計算した消費税の納付額 =(課税売上高×10%もしくは8%) - (課税仕入高×10%もしくは8%)

個人事業主も仕入れなどの際に消費税を支払っているため、これで消費税の二重払いが解消されます。

ただし原則課税で計算する場合、期間内のすべての取引について消費税のかかるものなのかそうでないのか、税率が10%なのか軽減税率の8%なのかなどを判断して帳簿に付けなければなりません。取引数の多い事業主は、煩雑な作業を強いられることになります。

簡易課税方式

一方、簡易課税とは、基準期間の課税売上高が5000万円以下の場合に選択できる制度です。課税売上高のみで消費税額が計算できるため、仕入れ時の消費税について考慮する必要がありません。

    簡易課税制度での消費税納付額 =(課税売上高×10%もしくは8%)-(課税売上高×10%もしくは8% × みなし仕入率)

みなし仕入率とは事業区分別に定められています。各事業区分のみなし仕入率は以下の通りです。

事業区分 主な事業 みなし仕入率
第一種事業 卸売業 90%
第二種事業 小売業 80%
第三種事業 農業・漁業・製造業 〜120,000円
第四種事業 飲食業 60%
第五種事業 サービス業 50%
第六種事業 不動産業 40%

計算すると分かりますが、簡易課税方式を利用した場合、原則課税方式で消費税額を計算する場合よりも支払う消費税額が少なくなるケースが多いです。

ただし注意したい点として、課税売上高のみで消費税額を計算することになるため、例えば規模の大きな設備投資により多額の消費税を支払った場合などは簡易課税方式の方が支払う消費税額が多くなる場合があります。

尚、簡易課税制度を選択するのであれば、事前に税務署へ「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要です。

消費税の納付義務の決まり方

消費税の納付義務の決まり方

事業者のすべてに消費税納税義務があるわけではありません。では、消費税納税義務の有無はどう決まるのでしょうか? 

消費税納税義務の有無は、下記によって決定します。

    消費税がかかる売上の合計金額 + 消費税がかからない売上 = 合計額「課税売上高」

消費税が発生する売上か、そうでないかは消費税法で定められています。消費税がかかる条件は以下の通りです。

・事業者が事業として行う取引であること
・国内取引であること 
・対価を得て行う取引であること
・資産の譲渡、資産の貸付、役務の提供であること

消費税納税義務がある事業者は課税事業者、納税義務がない事業者は免税事業者といいます。これらは課税売上高をもとに以下の判定基準で決定します。詳しく見ていきましょう。

課税事業者

「課税の条件」の項目でも述べましたが、以下のいずれかの該当で課税事業者となり、その課税期間は消費税を納税する義務があります。

・課税期間より前々年「基準期間」の課税売上高が1000万円超
・前年の1月1日~6月30日の課税売上高または給与支払額が1000万円超
・消費税課税事業者選択届出書を提出している

免税事業者

「個人事業主で消費税の支払いが免除になる条件」の項目であげたように、基準期間の課税売上高および特定期間の課税売上高等が1,000万円以下の場合は免税事業者となり、その課税期間は消費税納税義務が免除されます。

消費税について知っておきたい留意点

消費税の納付義務の決まり方

個人事業主が消費税について考えるときに注意するべき点を説明します。課税売上高が5000万円超となった場合と、免税事業者による消費税の請求です。

課税売上高が5000万円を超えた場合

事務処理の手間が省ける簡易課税方式を選択する個人事業主が一般的ですが、簡易課税制度は2年前の売上が5000万円以下の中小企業についてしか適用を受けることができません。業種によっては税負担が増える可能性があるため注意が必要です。

かといって、売上を抑えてしまったら本末転倒です。業績を伸ばすためには些細な税負担は気にせず、5000万円の壁を突破して利益をあげていきましょう。税負担よりも利益を考えることが大切です。

基準期間となる前々年度の課税売上高が5000万円を超えたら、原則課税方式で申告しなくてはなりません。しかし、簡易課税制度選択不適用届出書を提出しない限り、基準期間の課税売上高が再度5000万円以下になった場合は自動的に簡易課税方式に戻ります。

免税事業者も消費税を請求できる

免税事業者は「消費税を納税しないのに、顧客に対し消費税を請求してよいのか」と気になるところではないでしょうか。

免税事業者が消費税を請求しても何ら問題はありません。免税事業者は、国への消費税の納付を免除されている事業者です。免税事業者の取引における消費税については、消費税法に特に規定されてはいません。

納税義務の有無にかかわらず、顧客への請求に消費税を上乗せしても事業者の利益として問題はないのです。

節税も可能

状況に応じて適切な選択ができれば節税につながる可能性もあります。

個人事業主が消費税を納付する課税事業者になるか、免税事業者になるか。この分岐点は、基準期間(課税期間の前々年度)の課税売上高が1000万円を超えるかどうかです。

課税事業者になった場合、原則課税方式、または簡易課税方式のどちらかの方法で納付額を計算することになります。適切な判断をすれば節税につながる可能性もあるため、将来を見据えて選択するようにしましょう。

消費税が支払えない場合のリスクと対処法

消費税が支払えない場合のリスクと対処法

会社員と比較して個人事業主は自由度が高い反面、突如収入が大幅に減少するなどのリスクがあります。消費税は原則2年前の売上高が基準となるため、納税時には支払いが困難になっているケースもあります。

消費税の納付期限が遅れた場合はどうなるのか。ペナルティや猶予の申請についても事前に理解しておきたいものです。

消費税が支払えない場合に起こるリスク

消費税の納付期限を過ぎた支払いには、延滞税が課されます。当然、延滞金における利息と同じような扱いになるわけですから、延滞の期間が長くなるほど高額になるため注意が必要です。

<延滞税>
納付期限の翌日から2ヵ月が経過するまで・・・年7.3%
              2ヵ月以降・・・年14.6%

さらに、故意に支払いを避けたと判断された場合には、延滞税に加えて重加算税の課税対象となることもあります。脱税は義務を放棄したと認識され、換価や差し押さえが行われる場合もあります。支払いが厳しい時には、税理士に相談してアドバイスを求めましょう。

換価や納税の猶予を申請で対処

どうしても納付期限までに支払う術がない。そんな場合には猶予を申請するという方法があります。

滞納をし続けて財産が差押えられたり、換価によって債権を回収されたりする最悪の結果は避けたいものです。以下の書類を準備して都道府県税事務所に相談してみましょう。

・納税の猶予申請書、または換価の猶予申請書
・財産収支状況書
・担保の提供に関する書類

猶予が適用されても納税が困難であれば、債務整理や事業の倒産を検討します。

選択肢としては、債務(借金)を減額・免除して整理する、もしくは個人事業主としての活動自体を終える、選択肢はこの2択となります。資金繰りや債務整理に詳しい専門家に相談し、慎重に進めましょう。

個人事業主に重要な消費税書類

個人事業主に重要な消費税書類

個人事業主にとって重要な消費税に係る届出書類をご案内します。

消費税課税事業者届出書(基準期間用)

基準期間の課税売上高が1000万円を超えた場合は、わかった時点で速やかに税務署に提出します。

消費税課税事業者届出書(特定期間用)

基準期間の課税売上高が1000万円以下であっても、特定期間で1000万円を超えた場合、もしくは給与等支払額が1000万円を超えた場合は分かった時点で速やかに提出します。

消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書

これまでは課税事業者であったが基準期間の課税売上高が1000万円以下となった場合に免税事業者になるために必要な届出書です。基準期間の課税売上高が1000万円以下になったことが分かった時点で速やかに提出します。

尚、元より免税事業者であればこの届出書の提出は必要ありません。

消費税簡易課税制度選択届出書

簡易課税制度の適用を受けるために必要な届出書です。課税期間の初日の前日までに税務署へ提出する必要があります。

尚、消費税簡易課税制度選択届出書を提出した場合は、事業を廃止した場合を除き2年間継続して適用する必要があります。

0円にならなくても控除できれば節税になる

0円にならなくても控除できれば節税になる

基準期間の課税売上高が1000万円を超えて消費税を納税したとしても、青色申告を行ったり特例の控除制度を利用したりすることで節税効果が期待できます。節税対策方法には以下の4つがあります。

❶ 青色申告を行う
確定申告には大きく分けると青色申告・白色申告の2種類があります。節税効果を高めたいのであれば青色申告を選択しましょう。
<ポイント>
・所得金額から最大65万円の控除が適用
・配偶者は最高86万円の事業専従者控除が適用
・15歳以上の親族は最高50万円の事業専従者控除が適用
・赤字が出た場合は翌年の所得から差し引いて計上できる

❷ 経費・控除を見直しする
仕事関係で使われた移動費や食事などは経費の対象として計上できます。また、在宅で行った作業が報酬として支払われている場合は、通信費や光熱費、家賃なども経費に含まれます。

ただし、プライベートと仕事の割合を算出する必要があります。1年間の作業時間を計算し、仕事に計上できる部分のみ経費として認められます。

<例>
・事業開始・事業拡大のためにかかった費用
・撮影のために購入した機材費
・仕事上必要な移動のための交通費
・広告宣伝のために支払った費用
・取引先と食事などの接待費

❸ 減価償却の特例を利用する
仕事場として使用する事務所や家電製品などの固定資産は、減価償却の特例(少額減価償却)を利用することで節税対策できます。所得が高額な年度に特例を活用することで、課税額を減らすことができ節約となります。一定の条件を満たすことで適用されます。

<適用条件>
・消耗性のものであり、合計300万円未満
・購入金額が30万円未満のもの

❹ 個人事業主から法人化する
個人事業が順調に多額の収益を得られるようになった場合、法人化することも節税のひとつの方法です。法人税は法人の種類や所得金額によって区分されており、所得が高額になるほど税率が上がるという累進課税が適用されません。

下記の税率で所得税の場合よりも軽減できる場合は法人化を検討するべきです。

<法人税>
・年間800万円以下の部分:15%
・年間800万円以上の部分:23.2%

おわりに

個人事業主にとって重要な、消費税納付の免除の条件や消費税計算方法など仕組みが理解いただけたでしょうか。

基準期間の課税売上高が1000万円超とれば課税事業者として届出書を提出しなければなりません。原則課税・簡易課税によって計算方法は異なりますので、自分にとってどちらが最適なのか、法人化も視野に入れてあらかじめ検討しておきましょう。